スクランプ連盟

趣味の旅行、映画、パートナーと二人三脚のうつ病ライフについてゆるーく書いてます。

こえ。

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いつものウォーキングコースの途中に大きな橋があります。そこを歩いていたら、子供の声がしました。ふと立ち止まって、周りを見回してみましたがひとの姿はありません。気のせいだったかな、と歩き出そうとしたらまた声が聞こえます。2度目でようやく気付きましたが、ひとの声ではありませんでした。足元の欄干の陰に小さな子猫がいたのです。
見たところ乳離れが済んだかどうか、くらいでしょうか。こんな小さな子が小雨のそぼ降る夕方に、よりにもよってこんな場所に自分で来る訳がありません。おそらく心ない誰かが見捨てていったのでしょう。残念ながら猫アレルギーの私はその子を飼ってやる事が出来ません。ごめんね、と声をかけて先を急ぎました。
帰り道。日も落ちて来て、肌寒くなって来ました。早く帰らなくちゃ、とばかり考えて、子猫の事は忘れていました。頭空っぽなところに、またもさっきの声が…。さすがに無視は出来ず、足を止めてしまいました。さて、どうしたものでしょう。
雨に濡れて凍え死んでしまうかもしれないし、前は交通量の多い橋の上、後ろは冷たい川の水。仕方ない、と腹をくくりました。うちで一時預かりして、引き取ってくれるひとを近くのスーパー何軒かに広告貼らせてもらって探そう、と。ひざを落としていらっしゃい、と呼びかけました。
ところが、子猫は前より一層声を高くして鳴き始めました。じりじりと後ずさりしながら。ようやく気付く事が出来ました。この子はもう人間を信じていないのです。私を見て鳴いていたのは、助けを求めていたのではなく近づくな、という威嚇のサインだったのだと。
人間がこの子にどれだけひどい事をしたのか聞く術はありません。私は立ち上がってまた歩き去りました。ずいぶん遠くまで子猫の声が聞こえていた気がします。